あなたと出会ってから、五度目の冬です。
暖冬気味と謂われながらも、いつもの年以上に雪が積もりましたね。
幼い頃、母に手を引かれて通った雪道も
友達と喋りながら学校へ向かった雪道も
あなたと手を繋ぎ、互いにかばい合いながら歩いた雪道も
猛吹雪の中、車をとばして私の門限ギリギリに駆け込んだ雪道も
こうしてあなたへの手紙を書きながら、窓の向こうに見る雪道も
同じ雪道、降り積もる雪の色は同じなのに、
こんなにも違って見えるのが不思議でなりません。
最初から最後まで、あなたはとても優しかった。
あなたがメルセデスを愛車にした時、一番初めに乗せてくれたね。
床が高くて乗り辛そうにしている私を、気遣ってくれて。
今でも、あの丸っこい姿を街で見かけると、
つい視線で追ってしまいます。
車の中で、止めどもなくおしゃべりしたね。
あなたの夢、将来、あこがれ、車へのこだわり。
あの時は私も、確かにあなたと同じことを感じていた。
助手席から見える少し背伸びした風景が、私のお気に入りだった。
でもね、何かが違っていた。
いろいろな所へ連れていってくれて、とても楽しかった。
あなたに大切にされているのを感じて、とても嬉しかった。
でも、心のどこかが満たされずに、いつも不安を感じていた。
その何かが分からないまま、いつの間にか溝が広がって、
互いに傷つけ合うようになってしまった。
私はあなたとの関係に、とても真剣だったから
どうしても妥協することができませんでした。
最近やっとわかったの。
あなたは車を愛するようにしか、私を愛してくれなかった。
この雪が消えて、空が青さを取り戻して、桜の花が咲く頃、
私はこの街を離れ、あなたの知らない場所で、
あなたの知らない人に嫁ぎます。
一緒に歩いて行けなくて、ごめんね。
雪江
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